第97回箱根駅伝振り返り

第97回箱根駅伝が行われ、駒澤大学が13年ぶり7回目の総合優勝を果たし幕を下ろした。度重なる首位交代や王者青山学院大学のまさかの失速など、トピックスの多い今大会だったが、往路と復路に分けていくつかポイントを挙げていきたい。

 

●往路

東海大1区のエントリー変更は「出遅れ厳禁」のメッセージ

今大会から6人の当日エントリー変更が可能になり、数多くの有力選手が補欠になり、どのような変更が行われるか注目された。そのなかで東海大学は1区にキャプテンの塩澤稀夕が当日変更で入った。個人的に元々1区に入っていた市村朋樹は実力者であり、そのまま起用してくると思っていたが、やはり全日本大学駅伝でのブレーキに象徴されるように調子がいまひとつだったのではないかと思われる。そこで起用されたのが塩澤。名取や西田とともに3本柱としてチームを支えてきたキャプテンに両角駅伝監督は重要な1区を託した。1区は戦前の予想に反しスローペースでの展開となり、有力ランナーを配してきた大学にとっては誤算の展開となったが、塩澤は終始安定した位置取りで最終的には区間2位と十分なスタートを切った。往路優勝を総合優勝の条件に挙げていた両角監督にとっては最高のスタートとなった。

 

・ペースの上げ下げに苦しめられた下級生

1区が予想外のスローペースになったことは事実ではあるが、中盤から後半にかけては大幅ではないもののペースの上げ下げが幾度か行われ、逆に難しいレースとなった。その影響を特に受けたのが1年生。今回は重要な1区に、順天堂の三浦、駒澤の白鳥、明治の児玉(真)、山梨学院の新本、国士舘の山本という5名の1年生がエントリーされた。今回は有望な1年生が多く、順天堂の三浦を筆頭に大きな注目が集まっていたが、1区に関しては不本意な結果に終わった。

 

・重要なのは安定感、往路の分岐点となった4区

今大会は往路に関しては各区間ごとに首位が入れ替わるという珍しい展開になった。そんななか重要な分岐点となったのは4区。3区までは東海が1区塩澤区間2位、2区名取区間8位、3区石原区間賞という盤石の走りでトップに立っていた。しかし、東海は4区1年生の佐伯が区間19位とブレーキで順位を6位まで落としてしまう。代わって首位に立ったのは初の往路優勝を狙う創価。前回10区で区間新記録の走りをみせた嶋津が区間2位の快走をみせた。結果的に創価がこのまま往路優勝となるわけだが、区間順位は3位、6位、3位、2位、2位と各チームがブレーキになる選手がでるなか、終始安定したレース運びで見事に初の往路優勝を成し遂げた。

 

●復路

・再認識した重要性、流れを作る6区

復路のスタートとなる6区。平地では追いつけないタイム差も山では別の話。ここでいかに差を広げるもしくは詰めるかで、その後のレース展開に大きな影響を与える。トップと2分21秒差でスタートした駒澤は3年生の花崎が4年生以外では初の57分台となる57分36秒で区間賞を獲得。トップと約1分差を詰めて逆転優勝への反撃の狼煙をあげた。また、往路まさかの12位に沈んだ前回王者の青山学院は2年生の髙橋が区間3位の走りで往路の悪い雰囲気を払拭した。ここから青山学院の逆襲が始まっていく。前回東海の舘澤が57分17秒という驚愕の区間新記録を叩き出すなど、近年高速化の象徴ともなっている6区だが、今年も13人が60分切り、7人が59分切りと好タイムが続出した。もはや60分切りでは流れを変えられなくなってきている6区はまだまだ高速化の波が収まりそうにない。

 

・怪我に泣いたキャプテンのために、王者青山学院の逆襲

往路まさかの12位に終わり、優勝が絶望的となった青山学院だが、復路は全員が前日の悪夢を振り払う快走を披露した。7区は箱根初出走となった2年生の近藤が3位、8区は経験豊富な4年生の岩見が区間3位、9区は前回5区で好走し、総合優勝に大きく貢献した3年生の飯田が区間2位、10区は2年生の中倉が区間4位と往路とは一転して好走を連発。最終的には総合優勝の駒澤に2秒差まで迫られたが、見事に復路優勝を達成し、総合順位も12位から4位にジャンプアップするなど王者の意地をみせた。本来3区に入る予定だったキャプテンの神林が怪我で走れなくなったことが往路の失速に大きく影響したが、そんな神林の分もと気持ちを切り替え奮闘した復路の選手たちの気持ちの強さと本来持ち合わせていた選手層の厚さを感じたレース運びだった。

 

・チームで掴み取った総合2位、創価大学に拍手を

10区でまさかの大逆転を許し、総合2位に終わった創価だが、10区の小野寺の失速具合的にはあと1つ2つ順位を落としてもおかしくない感じではあったが、そこは9区までのランナーが順位を落とさず、タイム差を詰められることなくきたからこその功績であり、まさに総合力で勝ち取った2位と言っていいだろう。復路は2分以上の差があったとはいえ、東洋や駒澤、東海という実力校が追いかけてくる展開でプレッシャーを感じていたかと思うが、ペースを乱されることなく10区までは一度も首位を譲ることなくレースを展開した。

 

・優勝した駒澤の勝因はチームとしてのメンタルの強さ

10区で逆転し、総合優勝を飾った駒澤だが、決して順調に差を詰めてきたわけではない。6区の花崎が1分近く差を詰めて勢いをつけたが、その後7区で離され、8区で詰めて、9区でさらに差を広げられて最終的には鶴見中継所の時点では首位創価と3分19秒もの差をつけられてしまった。結果的に10区は駒澤の石川が区間賞、創価の小野寺が区間最下位という結果だったが、正直この区間順位でなければ逆転できない状況。まさに他力本願という展開のなかで、前を追い続けた石川の力走は見事としか言いようがない。そして詰めては離されのチームとしてもかなり辛い状況のなかであきらめずに前を追い続けた駒澤の選手たちのメンタルの強さは今大会の象徴とも言えるものだった。今回4年生を当日変更で3人変更するという苦渋の決断をくだした大八木監督の苦しい胸の内がうかがえるが、結果的にはその決断が来年経験者9人が残るという大きな期待がもてる布陣となったので、未来にもつながる大きな決断になったことは間違いない。